楽園の楽園

楽園の楽園

伊坂幸太郎

中央公論新社

感想

 面白かった、のだけど強烈な既視感。

 これ、少女終末旅行(つくみず)と全く同じ内容やなあ……。

 本作は詰まる所、アポカリプスの来訪である。そしてそこに人類の想定するようなシナリオは存在しない。人間社会が地球にとって悪性のウイルスとなってしまったから、薬を飲んで対処するようなものであり、人類と自然の対立といった、映画のようなストーリーは全くない。主人公らはそれを最後にはしっかりと理解し、約束された終末を穏やかな気持ちで受け入れる。

 うん、少女終末旅行やなあ……。

 文明社会の荒廃具合と主要登場人物が異なるだけで、大きなテーマは全く同じ。むしろ、少女終末旅行は漫画6巻かけて世界観を深堀し、キャラクターの内面に迫っていく分、わずか97頁の本作よりも味わい深い。本作も面白いには面白いのだけど、五十九彦の生い立ちしか語られず、物足りなさのほうが強く感じてしまう。

 まあ、令和の寓話として読むと良いのかもしれない。短く、少ない情報量の中で、人間と自然の壮大な関わりを描き、原初の創世記神話から最新のAIまで絡めながら一つの物語を編み上げる試みは面白い。挿絵も鮮やかで楽しいし、これはこれで独自の味わいがあるのもまた事実である。

 今回の敗因は、私が少女終末旅行を知っていたこと。知識が必ずしも人を幸せにするわけではないんだなあって、ありきたりなことを書いて感想文を〆ます。