感想
面白かったけれども、各要素がテンプレ地味ていて、さしたる感動はなかった。LGBTQIA+に理解を示しつつも、身近(今回の場合息子)にいると受け入れられないヘテロや、そんなこと気にせず互いを想い合えれば十分じゃないかという主張や、登場人物の感情に合わせて変化する天気など、テーマとしても、小説の表現手法としてもありきたりな内容で、感情移入できるほどのめり込むことはできなかった。
とはいえ、著者の筆がノリノリだった点は良かったと思う。特に聖将と雄哉それぞれの章では、各人のセリフがとんでもなくクサイのだけれども、BL漫画で見られる言い回しに近いからか、呆れつつもどこかくすっと笑える内容になっている。著者本人が腐女子かどうかはわからないけれども、楽しそうに書いていることは伝わってきて、明るい気持ちにさせられたのは確かである。
ただ、2点苦言を呈したい。
まず、未成年に手を出しちゃいかんでしょうよ……。フィクションなのでそこに目くじらを立てる必要はないのだが、解説が言うように「さまざまな今日的な問題を、物語の中に落とし込んでいる(p.244)」のであれば、せめて、「成人した大学生と未成年の高校生」というアンバランスな関係にも言及してほしかった。高校生の娘/息子を持つ親ならば、たとえヘテロでも、成人大学生が恋人と紹介されれば少しは心配するのではないだろうか。
それから、時折顔を覗かせるルッキズムもどうにかならなかったのだろうか。聖将と雄哉がイケメンカップルと称されていることしかり、聖将の母莉緒や、聖将の元カノルネ、雄哉の元カノ美弥子など、とにかく顔の整った人物しか登場しないし、そもそも小説という媒体でわざわざルックスが明示されているのも引っかかる。だからといって、全員ブスに描けだとか、ルックスを明示するなと主張したいわけではないのだけれども、こと本作の容姿への言及にはどこかもやもやしてしまう。聖将と雄哉含め、登場人物の誰もそこに気付いていないから余計にである。
以上、作品としてある程度楽しむことはできたのだけれども、よく見る展開や少し偏った描写になんとなくもやってしまった一冊だった。似たフォーマットで挙げるなら、「娘について/キム・へジン(亜紀書房)」のほうが好きだなあ。