同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?

同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?

石田勝紀

ディスカヴァー・トゥエンティワン

感想

 能力主義の影に、真摯さが垣間見える意外な良書。昨日「弱いロボット」を読んで、個人の能力へ還元する考え方に猜疑心を抱き、「スペック」や「アップデート」といった言葉に抵抗を覚えていた。しかし、本書の根底には、他者を排斥せず(本書の言葉だと「争いやいじめがなくなる(p.188)」こと)、「相手の長所(p.192)」を見て「自分の心を満たす(同頁)」してほしいという真っ直ぐな願いが込められている。そこにはビジネス書特有の胡散臭さや白々しさは全くなく、子供への想いが真摯に伝わってくるのだ。

 もちろん、ツッコミどころはある。そもそもOSの理解が間違っていて、某ラジオのH氏が激怒するだろうし、「要するに?(p.119)」というマジックワードには、意識しすぎることで取りこぼしてしまうものが多くあるのではないかと危機感を覚えてしまう。本書の言葉を借りるなら、「字ヅラだけを追(p.82)」って本書を読むことで、著者の意図しない、自他を不幸にする能力主義に陥ってしまいかねないとも感るわけである。

 とはいえ、「OSのバージョンが高いか低いかは、人生の幸せとはなんら関係ない(p.67)」とはっきり書かれているのは、(たとえOSを正確に理解していないとしても)安心できる。著者は、学力を高めたり良い学校や会社に入ることの根本には、何事も楽しみ、幸せに生きることがあり、さらにその幸福は、他者ひいては自身を認めることによって成り立つと考えている。だからこそ、マジックワードが単なる小手先の技術に成り下がることなく生き生きと読者の心に入ってくる。

 こういう不思議なバランス感覚には既視感がある。「世界一流エンジニアの思考法」だ。こちらも、書いてある内容はともかくとして、著者のポジティブな感情が前面に伝わってくるから、一切の嫌悪感なく、言葉がすとんと心に落ちる。文章を書くということとは蓋し、いかに素直に書くかということなのだろう。本書とも「一流エンジニア」とも関係がないのだけれども、いやむしろ関係がないからこそ、書くことの本質が無防備に曝け出されているような気がするのである。

 本書の実際的な内容については、既に実践していたり、疑義のあるものもままあった。しかし、政情不安な昨今において、読めて本当に良かったと思えた素敵な一冊だった。

OSの理解について