ルポ超高級老人ホーム

ルポ超高級老人ホーム

甚野博則

ダイヤモンド社

感想

 面白かったけど、面白くなかった。確かに、超高級老人ホームとの接点なんて一切持っていないから、知らない世界が広がっていて面白い。ただ、展開があまりに一辺倒すぎる。1)老人ホームの高級な側面を見せて 2)対照的に人間関係のどろりとした部分を映して 3)著者がチクリと皮肉を言う という展開が全ての章に共通していて、半分くらい読んだところで飽きてくる。極端な話、帯にある「入居金3億円超え/超富裕層の『終の棲家』は/桃源郷か姥捨て山か」という言葉が本書の全てであり、それ以上の情報や情動はなかったと言える。

 そもそも、こういう内容は「九条の大罪」で余すところなく語られている。入居者からは金を絞り、スタッフには金を渋り、各種制度を悪用してさらに金を得る。そこで生きる人々のQoLなど意に介さない悪徳老人ホームの典型例は、この令和の世ではそれほど新鮮でない。私はたまたま九条の大罪を読んでいたけれども、古今東西のドラマや小説でも語られているだろうということは想像に難くなく、取材をもとにしたルポであったとしても、大きな驚きはなかった。

 ただ、一点印象に残ったことを挙げるならば、給料の低さである。超高級と謳っており、実際に億単位、そうでなくても何千万単位の入居金を提示する老人ホームのスタッフの年収は、額面で300~500万のレンジで収まるのだ。老人から巻き上げた大量のお金は、一体どこへ流れているのだろうか。もちろん、立地や設備へのコストも多大なのだろうけれども、そこに居る「人」にお金がかけられていないのは、なんともモヤモヤする話である。

 とはいえ、額面年収300~500万は、平均的な介護職のそれを上回っている。正直、絶句である。対人コミュニケーションを要する職業に対する給与の低さはどうにかならないのだろうか。介護職に限らず、接客業や飲食業など、とにかく「人」に対するコストが極めて小さい。だのに、お金では取り戻すことが難しい「精神」をどんどん擦り減らして働かなければならず、物悲しい気持ちになってしまう。みんな、対人系のお仕事してる人にはことさら優しくしようね……(かつて接客業にて胸ぐらを掴まれたことのある人間より)。

 少し話が脱線してしまったが、このくらいしか書くことがないのだから仕方ない。「お金で変えないものもある」なんて言説は、私が生まれる何百年、何千年も前から存在するものであり、今更そういうことを新発見の真理のように書かれても、興は乗らない。せめて入居者やスタッフのパーソナリティに肉迫していれば充実しただろうに、個人情報等々のせいか、如何せんそうしたところへの介入が少なく、あっさりとした読み味になってしまったのもまた残念なポイントである。帯の「衝撃のルポルタージュ」という言葉が虚しく浮く、そういう本だった。