50歳になりまして

50歳になりまして

光浦靖子

文藝春秋

感想

 衒いのない真っ直ぐな文章が、すっと胸に入ってくる。内容は全く異なるのだけど、「世界一流エンジニアの思考法」を思い出す文章で、著者の生き生きとした声が浮かび上がってくるようである。もちろん、テレビタレントゆえにその姿をイメージしやすいこともあるだろうが、とはいえ引っかかりなくスルスル読める本書は、素麺のようにさっぱりしていて美味しい。

 ただし、内容は偏屈でひねくれている。でも、面白いしぐっとくることもある。例えば著者は芸能界のことを「28年やってても頑張り方すらわからない世界(p.2)」と説明していて、冒頭から著者と目線をばっちりと合わせてくれた気がする。華々しい世界で活躍する人でも、社会で働く人間としては同じで、日々辛酸を舐めているのだと思うと親近感が湧くのだ。

 また、他の芸能人が友達として登場しているのも新鮮で面白い。印象的なのは「加藤さんはもう働いてるんだぞ(p.81)」という言葉。私には友達の仕事現場を見学する機会なんて全くないので、テレビをつければ友達が働いてる姿を見られるという感覚は頭になく、すごく面白い。それに、著者の視点というフィルタがかかっているので、登場する芸能人皆に親近感を覚える。社会的に色々差異があろうが、根っこは同じで、そこに隔たりなんてないことを文章から示してくれるのである。

 その上で、聡明さがさりげなく見え隠れしているから、読んでいて不快感がない。例えばp.63では、男女のお喋りの傾向の違いについて、男が「深く深く掘り下げてゆきたい」のに対して女は「横に横にスライドしてゆくトークが得意」だと考えている。このような、「なんとなくわかる」という感覚をぴったりと言語化する能力に長けており、痒いところに手が届きまくって、気持ちよく読み進められるのだ。

 等身大な目線と優れた言語化能力、そして素直さ。この3つがあるからこそ、本書はリーダビリティと感慨が両立した楽しいエッセイになっているのだろう。つまり、素麺は素麺でも、匠の手による、洗練された素麺なのだ。