
SEを極める50の鉄則
馬場史郎
日経BP
感想
良く言えば時代が本書に追いついた、悪く言えば凡庸の一言。AIの隆盛が激しい昨今、ハードスキルでなくソフトスキルが重要になるというのは耳に胼胝ができるほど聞いた話で、面白味はない。ただ、本書は2000年に出版されたかなり古い本であり、その内容が現代にも通じているという点ではバイブルと呼ばれるのも納得である。ある意味、本書の内容が当たり前となる時代がようやくやってきたと捉えることもできる。
そう、結局人なのだ。システムを作る人も、運用する人も、利用する人も、本当のエンドポイントには必ず人が存在する。だからこそ、どんな技術職であれ種々のチェーン上にいる人たちの想いを汲み取ろうとしなければ、劣化版AIとしての烙印を押されてしまうのだ。もちろん、本書でも触れられる通り技術の天才は一定数存在するけれど、仮にそうだとしても対人関係に努力を割いておくに越したことはないのだ。
では、どうすればソフトスキルを向上させることができるだろうか。本書の言葉を借りていくつかピックアップしてみる。
- チームワークを重視(p.20)
- しっかりした価値観(p.24)
- 多種多様な経験(p.44)
- 気配りや行動力(p.68)
- 日ごろの地道な努力(p.102)etc……。
……極めて、当たり前である。そもそも、SEに限らず人として大事なことばかりである。私は読書会にしばしば参加するが、上記の大切さを身に染みて感じることが多々ある。たとえ参加者であっても、相手がどう感じるか・どう受け取ることを考えながら話さなければならないし、輪に入れていない人がいないか視野を広くする必要もある。参加すればするほど人間の多様さを知ることができるし、読書会で楽しくお喋りするためには普段からある程度本を読んでいる必要がある。
このように、本書はSEに限らず、社会で働く上で普遍的に大事なことが網羅的に書かれている。そのため本書にはビジネス書としての一定の価値はあるだろう。しかし一方で、それらの内容はあまりにも当たり前で、極端な話学校で教えられるようなものばかりである。ゆえに特別秀でている本でもなく、SEとして伸び悩んでいるときにチェックリスト的に読み返すのが丁度良いのだろう。結局、「SEを極める」とは「社会で働く人としての人間性を極める」ことに他ならないのだ。