エンジニアの知的生産術

エンジニアの知的生産術

西尾泰和

技術評論社

感想

 当たり前のことしか書いておらず、久々に大きなミスマッチになった。技術評論社のこのシリーズは、何よりも表紙が無機質でかっこいいから、ついつい手に取ってしまうし、実際技術に関する内容だと面白い本が多いのも事実。本書も学習に係る様々な手法を一挙に集めた点では優れているものの、とはいえ結局、自身の興味に向かってトライ&エラーくらいの結論にしかならないものばかりで、本書を読んでいる時間があるならば、一行でも多く文章を読み、一行でも多くコードを書いたほうが生産的であるように感じた。

 特に、速読法の多様さには、驚きつつも呆れる。フォト・リーディングだの、フォーカス・リーディングだの、いかに本を読まずにその内容だけを摂取したいのかが、こうした造語から感じられる。もちろん、技術書やビジネス書は小説と違ってプロセスよりも情報量が大事なので、効率を重視するのも当然ではあるのだが、どこか「ファスト教養」的で、効率化に傾倒しすぎると零れ落ちそうなものがあるように思えてならない。

 ただ、新しくはないものの、自戒として胸に刻んでおきたい箇所が2点あったのでここにメモしておく。

 レポートを書きはじめる前の下準備として、まず100枚書き出すことを目標に置くと良いです。[略]
 もし50枚すら用意できないのであれば、情報収集が足りていません。関連書籍を読むなどして、考える材料となる情報を収集しましょう。

p.147 第5章 考えをまとめるには

 まず一つ目が、「100枚書け」である。厳密に100枚である必要は勿論ないのだが、何等かの成果物を作成するくらいには、それを遥かに上回るアウトプットが必要であるということだ。これは重々心に留めておきたい言葉である。私は取り立てて要領が良いわけでもないので、例えば10インプットして10の成果物を挙げられることはまずない。だからこそ、100インプットして、100のアウトプットをしてようやっと、10の成果物を完成させられるのだ。

短文の中で重要そうなキーワードを辞書で引き、辞書の説明と自分が言いたかったことを比較します。短文に書かれている単語は、自分の中のうまく表現できないフェルトセンスに仮で当てた単語なので、辞書の説明と比較すると多くの場合何らかの食い違いがあります。その食い違い、つまり違和感に注目します。

p.204 第6章 アイデアを思い付くには

 二つ目のこの文章には、大事なことが二つ書かれてある。

 まず、辞書を引くということ。私はややともすると言葉をなんとなくで運用してしまう。もちろんそれはそれで生の言葉として大事なのだけれども、文章を上手に書けるようになりたいと思っている以上は、ちゃんと辞書を引いて、言葉のコモンセンスを確認するようにしたい。自身の認識が、世間と大きくずれているということは往々にしてよくあることだから。

 それから、「違和感に注目」することも大切である。些細な違和感をまあいいやと放置するか、探求するかで成果物は大きく変化する。言葉ではわかっているのだけれども、ずぼらで怠惰な私はどうしてもさぼってしまいがちである。公私ともに、違和感をそのままにせず、その正体が一体何なのか言葉にできるよう努めたい。

 「大きなミスマッチ」と書いた割には、案外文章をたくさん書くことができた。良いのか悪いのか、読んだ本に対して悪い印象を持った時のほうが多く書くことができるのは相変わらずである。ともあれ、本書を読んで、その内容を受けて、辞書を引きながら(100枚ではないけど)たくさん書けたのは結果的に良い経験になったと思う。今後も、今回のような形でザクザク大量に読んで、ザクザク大量に書いていきたい。