感想
本書によって、今村翔吾は私の中で赤坂アカと同じタイプの作家としてカテゴライズされてしまった。つまり、わくわくする風呂敷を広げるのは得意なのだけれども、それを綺麗に畳むのには不得手で、ゲームでいえばノーマルエンド的な終わり方になるということである。ここに至るまでの道中に楽しませてもらったから十分ではあるのだが、不完全燃焼感が拭いきれない結果となった。
というか正直、本作はひどい。
まず、葛藤や苦悩など、真に迫る感情が全く描かれなかったということ。「じんかん」と同様、前半(1~3巻)で各登場人物の内面を描ききってしまうと、あとは行動するのみとなって、ひたすらダイジェスト形式で出来事が語られるに終始する。極端な話、年表を追っているのとさほど変わらず、小説としての楽しさはあんまりない。
それから、チームプレイがないのも残念である。主要キャラクターの死を演出する都合からか、1対1の構図ばかりで、強敵をチームで追いつめるような熱い展開が全くなかった。しかも、だからといって各キャラの深堀がしっかりしているかというとそうでもなく、幻刀斎や橡の過去はよくある逆境を抱えているだけで、1~3巻と比べると、組み立てがかなり雑である。ギルバートの最期もあっけないし、もう少しキャラクターを大事にしてくれても良かったのではないだろうか。
あとは川路の黒幕感が弱いのも作品に張りがない一因である。川路の蟲毒主催の動機は「警察に銃を携帯させること」だが、その時代において警察が銃を持つことの重大さがいまいち伝わってこないので、黒幕の威厳はあまり感じられなかった。彼の死も結局ダイジェストでさらっと流されるだけで、エンタメ小説としての展開としてはなんとも面白くない。
と、いう感じで本作はダイジェストっぽくなっているがゆえに、キャラの掘り下げが甘く、感情移入できないまま終わってしまった。著者に筆力があるのは知っているので、せめて5巻を用意して、たっぷりと余裕を持った状態で書いてほしかった。400頁過ぎて回想シーンを読まされるのは流石に紙幅が足りておらず、なんとも勿体ない。まあ、このあたりはドラマに期待したい。とりあえず、4巻分の長旅、お疲れ様でした。
