感想
それより新卒採用の本質は、ギャンブルである。
p.40
とにかく赤裸々で、ただただ楽しい。就活や仕事に対して色々と思うところはあるのだけれども、それ以上に、そういうものを小馬鹿にしながらテンポ良く突き進んでいく様は爽快で、おジャ魔女カーニバル的な、「嫌な宿題は全部ゴミ箱に捨てちゃえ~♪」という気分になる。
そう、結局、「人」なのである。これは「トリリオンゲーム(小学館)」でも散々言われていることだ。どれだけシステマティックに業務が進行していようと、どれだけデジタル社会が発展しようとも、最終的なエンドには人が存在していて、それぞれがそれぞれの感情を持っているのである。だからこそ就活はつまるところギャンブルであり、絶対的な基準は「顔面の黄金比」くらいしかないのだ。
ところで私は既にトリリオンゲームを読んでおり、かつ生来の仕事嫌いも相まって、本書を読む前から就活市場を馬鹿々々しく感じていたが、人によっては本書が救いにもなるのではないだろうか。本書でも登場した、内定式後に入社を哀願し、ともすれば「この会社じゃなきゃお先真っ暗だとか考えている(p.68)」ような思い詰めた就活生にとっては、その裏側のいい加減さを知る機会になり、ふっと肩の力を抜くことができるようになるのではないだろうか。
私は別に、新卒採用がギャンブルであっても良いし、ビジネスの本質がコミュ力であっても良いと思っている。それは至極当然だし、変えようもない一種の摂理だからだ。ただ、新卒を横並びで一斉に採ることによって、当人たちが他人と比較してしまい、結果として余裕をなくし、人生の視野を狭めてしまうのはあってはならないことだと考えている。ゆえに、本書が多くの人の手に渡り、より多くの人が就活や仕事を笑いで吹き飛ばせるようになれれば良いと思っている。
そう思うと、本書はエンタメ小説でありながらも、読み手の心に深く刺さる文学作品でもあるのかもしれない。数十年後に本書を読み返すのが、今から楽しみである。
