感想
「芦沢央がまさか怪談を書くとは思わなかった(p.305)」という池上冬樹氏の解説が、かなり意外だった。というのも、私はこれまで「火のないところに煙は」「神の悪手」を読んできて、芦沢央氏はスリラーの名手だと感じていたからだ。いずれも楽しく読めたのだけれども、前者は抜群に面白かったのに対して、後者は若干の物足りなさを覚えてしまったためである。
実際、本作「許されようとは思いません」も同様で、背筋が凍るような、フィクションとわかっていても胸がきゅっとなってしまうような雰囲気の演出において、芦沢央氏の本領が発揮されたように感じる。一文一文が簡潔でわかりやすいゆえに淡々とした冷酷さがあり、ホラーやサスペンスの空気感と非常に相性が良いのだ。
加えて本作は、物足りなく感じた「神の悪手」と対照的に、どの話も捻りが効いているから面白い。特に4編目の「姉のように」では叙述トリックが使われており、意表を突かれる感覚が爽快である。最後の一ページを読むまでどうなるかわからない緊張感が、種明かしされた後の緩和に繋がり、カタルシスを覚えるというわけだ。
直近で「ディディの傘」を読んだこともあって、本作をさっくり楽しめたのは、いつも以上に肩の力が抜ける良い読書体験となった。エンタメ小説の良さが存分に詰まった、良い一冊である。
