
アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した
ジェームズ・ブラッドワース, 濱野大道
光文社
感想
資本主義の強大な力は、イギリスのほぼすべての町の目抜き通りを、文化的に不毛な地へと容赦なく変えてきた。そこに並ぶのは、同じような体験を提供する退屈で特徴のないチェーン店ばかり。強大かつ不可解な資本主義の力に圧倒された社会では、なぜか移民だけが標的にされる。実際にイギリス文化が踏みにじられているのだとすれば、より大きな責を追うべきなのは、東欧から来た果物収穫作業員ではなく、ドナルド・マクドナルドのほうだろう。
p.44 アマゾン
こういうドキュメンタリーは鮮度が命。言い換えると、私はこの本を読む時期を逃してしまったということである。翻訳版は2019年に出版されているので、それほど古いわけではないのだけれども、とはいえもう6年も前の話。状況が改善されていないのは当然としても、この手の話は本に限らず様々な場面で見聞きする。タイトルの引力は強いのだけれども、内容に特段の目新しさもなく、「アマゾン」と「介護」を読み終えてお腹いっぱいになってしまった。
特に、本書では著者自ら「この実験を長い声明文や理屈っぽい制作の提案で締めくくるつもりはない(p.321)」とあるのが致命的である。もちろん、現状をありのまま伝えて、それをどのように受け取るかは読者に委ねるというのはよくある手法だし、バイアスがかかっていない点において有効なものでもある。しかし、上記の通り取り立てて目新しさも内容を、著者の見解なしに伝えられても、「知ってた」となるだけである。やっぱり読む時期を逃した感は否めず、本書で語られるような劣悪な労働環境を知らないときに読んでおけばと思ってしまう。
ただ、いかに6年前といえど、現在の日本に通じることはある。イギリスにせよ、日本にせよ、移民問題は明確な「解決」がない難しい問題である。特に最近は、7月の参院選やJICAのホームタウンの騒動などで移民を排斥しようとする動きが(少なくともSNS上では)活発に起きているように思える。本書を読む限り、おそらくイギリスも同じ状況であるため、学ぶことは多くあるように感じる。そうした気づきを与えてくれたという点では、本書を読めて良かったと思う。