感想
そして、正解が時々刻々と変わりうる時代には、「考えていることが正しいかどうか」よりも「考えていることの正しさへの執着」の方が、チームの心理的安全性においてより問題を大きくするのです。
p.110
仕事に限らず、様々な場面で応用ができそうな考えが多く、ビジネス書の中ではかなり優良なほうだと感じた。例えば心理的安全性の4因子である1)話しやすさ 2)挑戦 3)新奇歓迎 4)助け合いは、読書会や、ひいては社会問題について考える際にも重要な争点となりそうである。特にそう感じるのは3)新奇歓迎で、自分の主催する読書会ではこの点を大事にしてファシリテーションしていきたいし、社会においては移民問題を考える上で重要になるのではないだろうか。
また、本書では「読者が率先して実践する」ことを納得感のある説明とともに主張しているところも良い。相手の発言で自分の行動が変化していくように、自身の発言もまた相手の行動を変えうる力を持つ。だからこそ著者は、「『相手に問題がある。それに私は困っている』と思うとき、実はあなたは問題の一部となっている(p.67)」と主張するのである。怠けがちな私にとっては耳が痛いが、とはいえこれほどまでに懇切丁寧に説明されると、頑張ろうとも思えてくる。とりあえず、元気な挨拶を、たとえ相手がどのような反応であってもできるよう心掛けたい。
それにしても、本書の文章は他のビジネス書に比べて、ひとまわりかふたまわりくらい上手な気がする。確信がないのは、具体的にどういう点で上手なのか言語化できないからだ。ぱっと読んだ感じは、そこらのビジネス書となんら変わらないように思えるのだけれども、不思議と言葉がすっと頭に入ってくる。先の引用においても、歯の浮くような質の悪いビジネス書とは違って、真摯で、価値ある言葉として読めるのだが、果たしてどうしてそう感じるのだろうか。
この「観察者としての私」という立場にいると、あなたの頭の中に、どのような考えが浮かんできたとしても、あなたはその思考を眺める側であって、それに慌てたり、それに傷つけられたり、脅かされたりする存在ではない、ということが、もしかしたら体感できたかもしれません。そこは、人生で何が起ころうとも、ただそれを眺めている「安全な場所」なのです。
p.142
蓋し、長文と読点の質ではないだろうか。上の引用は、166文字が僅か2文で書かれている。平均的な一文の長さはわからないものの、おそらく上記は長文に分類されるはずだが、苦労せず読むことができる。むしろ、一つの文にまとまっている分、情報と情報の繋がりが見えやすく、短文でたくさん区切られるよりもわかりやすくなっているようにさえ感じる。ここが、イマイチなビジネス書との違いではないだろうか。
もちろん具体的に他の書籍と比較しているわけではないので、あくまで私の先入観であるし、加えて単に私が長くて読点の使い方が上手な文章が好みであるというだけの話かもしれない。とはいえ、本書の文章が、その内容の是非ではなく、文章そのものとして味わえたのは事実である。1)話しやすさ 2)挑戦 3)新奇歓迎 4)助け合いに加えて、5)相手に負荷を与えない文章力もまた、心理的安全性には大切な因子に感じた次第である。
