タイタン

タイタン

野﨑まど

講談社タイガ

感想

 前回の読書感想文が、10/15。忙しすぎて読書メモにまとめていないだけで、実は何冊も読んでいたのだが、どうにも入り込めず、途中で読むことをやめていた。そんな中、最後まで読みきって、感想文をじっくりと書きたいと思える作品にようやく出会えた。「小説」しか読んでいないけれど、野﨑まどらしさをじっくりと感じられつつ、奇想天外な発想と展開に終始楽しませられっぱなしだった。いや~良い読書だった。

 正直、舐めていたというのもある。仕事×AI。はいはい、最近よくあるやつね。本作は4年前に出版されたものだけれども、とはいえAIの隆盛はその頃から既に起きている。AIが仕事を代替するだの、AIに心はあるかだの、食傷気味なテーマに対して斜に構えていたところがあった。

 ところがどっこい、第一章から度肝を抜かれてしまう。AIが、巨人となって動き出すのだ。物理的にも、物語的にも規格外。ここまででも十分に面白かったのに、さらにエンジンがかかり、物語は急加速する。

 かと思いきや、そこからの展開はどこか懐かしさも感じられるロードムービー。ここにおいて、コイオス、ひいてはAIに心があるか、あるいはユヴァル・ノア・ハラリ的な実地を行くAIものなのかなんてどうでもよくなってくる。キャラクターとキャラクターの温かい交わりが、本書で言うところの「仕事(=影響する / される)」の確かな実感を与えてくれるのだ。

 そしてその終わり方も劇的である。AIが人類を滅ぼすなんて典型的なディストピアは起こらない。むしろ、AIのおこぼれに与りながら何不自由なく生きられるユートピアが待っている。だのに、単なるハッピーエンドものとは一線を画す味わいがあるのだ。自覚しないまでも、当たり前に思っている「万物の霊長」という常識を根底から覆す結末に驚かされ、またそのスケールのあまりの大きさに飲み込みきれず、色々と想いを馳せたくなるのである。

 本当に、良い読書体験だった。物語を楽しむ、文章を楽しむ。とかくもやもやと悩まないで、気持ちよく、けれど確かな実感と達成感を伴う、ただただ良い読書を味わうことができた。申し分ない名作。いや~、良かった。