感想
「ノルウェイの森」、完敗。石田衣良の圧勝。いや、当然勝ち負けを決めるものではないのだけれども、「ノルウェイの森」と同じことをしていながら、当作のような嫌悪感が全くなく、むしろ感動すら覚える。人の欲求と死、それから女性に対する敬意がしっかりとあるから、一般的には倫理にもとる行為だったとしても、深く心を通わせることができるのだ。
例えば御堂静香の旧友ヨーコさんと、彼女に迫る死を悼みながらセックスするシーン。状況だけ見れば、「ノルウェイの森」の終盤のレイコさんとのシーンを彷彿とさせる。しかし、後者がただ快楽を貪る動物的なものであるのに対して、前者は「大切な人物の死を想う」という行為を共有した上での行いである。
「ぼくたちは心を分けあうために、身体を重ねる(p.189)」とあるように、ヨーコさんとリョウくんは深い悲しみと敬愛を共有し、真の意味でひとつになった。これは誰でも簡単にできるわけではない。他者へリスペクトと愛情を惜しみなく注げて、かつそれが二人も必要である。そうした途方もないハードルを乗り越えて交わされる行為だからこそ、私はいたく感動することができるのだ。
こうした感動がありつつ、物語の最後には以下のように綴られる。
いつか骨だけになるまで、ぼくは誰かと身体をつなぎ続けるだろう。いつかこの身体から欲望と肉が離れ落ち、清潔な骨に変わるまで。
p.226
この言葉で、私はこの作品が何であるかがはっきりとわかった気がした。
それは、「肯定」である。生きること、その中で種々様々な欲望を持つことへの圧倒的で遠大な肯定こそが、本作の真髄ではないだろうか。リョウくんの生き方は、多様な性の在り方を肯定し、受け止めて、認めてくれる。彼の客が様々な性的嗜好を持っているのと同様に、現実世界の我々も様々な嗜好を持って、ときにそれに振り回され傷つけられながら生きている。本作は、そんな生きていれば切り離すことの出来ない部分を優しく包んで肯定してくれるから、読者もとい私の心の奥深くまで入っていくのだろう。
第二部も、相変わらずず〜っとセックスしかしてないのに、本当に良い作品。セックスセックスセックス!!!
