感想
「とにかくパスポートとスマホ。これだけは忘れないように。それ以外はなんとでもなる。服も下着も買えばいい。コンタクト液も充電ケーブルも前髪クリップもなんでも買える。覚えておきなさい。日本にあるものは韓国にもある! ないのはパスポートとスマホ! 分かったわね?」
p.91
ここに、金原氏を好きになれない理由が詰まっている。
持っているお財布が大きすぎるのだ。オートロックのマンションなり、韓国での通訳なり、至る所で利用されるタクシーなり、突発的なボトックスなり、食器を洗う際に着けるゴム手袋なり、微に入り細を穿つ勢いで金銭的な裕福さを提示され、挙句の果てにはそれらを「ささやか」と形容する。
そりゃあ金があれば社会的なあれこれを気にせず、かつ他者を気遣いながら好き勝手生きられるでしょうよと。生活の土台となる経済力が途轍もなくしっかりと固められているのだから、世界を飛び回って様々な人と出会い、見識を広げ、よりたくさんの縁を紡げるでしょうよと、白けた気持ちになってしまう。
加えて、本作は物語というよりも、著者の思想を語る場のような印象も受けてしまう。登場人物たちの長回しは、彼らの人生から出てくる言葉というよりも、金原氏の中から生み出される言葉のように思える。著者なんだから当然っちゃ当然なのだけど、登場人物がもれなく金原イムズ的なものを持っていて、どうも物語のようには思えない。金原氏版の進研ゼミみたいなものかもしれない。
レーベルの通り、さくっと読める割にぎっしりと内容が詰まっている点については、流石種々の文学賞を受賞されている作家だと感心できる(なんか偉そう、もう少し謙譲する言葉を見つけたい)のだが、やっぱり上記2点がどうしても気にかかる。まあ~合う合わないがあるんだろうねえ。
