世界 2025年12月号

世界 2025年12月号

岩波書店

感想

●読者談話室の賑わい(福嶋聡)

 総合雑誌『世界』は、さまざまなルポ、多様な意見や思想が集まる、誰もが入場できるバザールです。時折飛び交う怒号を、バザールの賑わいと言ってもいいのではないでしょうか。それが戦後八〇年の経験と試行錯誤を踏まえた、民主主義と平和を何よりも奉じるものであれば。

p.76

 この文章がたまらなく良い。怒号をバザールの賑わいと表現する懐の広さもさることながら、そう捉えられるような「場」をつくっている総合雑誌「世界」の在り方も素晴らしい。私は去年の夏から読んでいるため、読者談話室で議論の応酬が発生するところを目撃したことはないし、ずっと見開き2頁分しかないものの、80年の歴史で積み重ねてきた「『民主主義と平和を大切に思う心』という一本の太い線」は確固として感じられる。

 先人たちの声が、私を鼓舞してくれる。物理的に遠くで起きている政治的な問題は、私個人の生活と地続きであると教えてくれる。ときどき、こんなこと考えて何になるのかなあ、しょうみ私にできることなんてたかが知れてるのになあと思ってしまうけれども、折れることなく「世界」を読み、社会について考え続けたいと思う。

 改めて言いたい。SNS席巻の風潮を不安に思う今日、『世界』のような雑誌が質を下げずして、もっともっと市井の人の食卓に、或は職場の机の中に、通勤電車の中に入って行くことを願っています。

●「読む」が変わると人生も(三宮麻由子)

 同時に「速読の恐さ」にも気付かされた。情報が増え、速く読むと、頭に残るものが自身のバイアスによって選別される危険が高まるのだ。[略]
 ここで役立つのが「精読力」だ。原点に立ち返り、著者の世界に心と時間を預ける感覚を思い出して、中立を心がける。

p.79

 耳が痛い話。昨日読んだ「マザーアウトロウ」なんかはまさに、この「速読の恐さ」に呑まれてしまっている。以前より感じていた「金原氏と私の金銭感覚にズレがある」という思い込みが、そう思わせる描写にマーカーを引き、それ以外の描写を埋もれさせる。本当は、良いなあと思う箇所もあったのに、上記バイアスがノイズになり、あまり印象に残らなくなってしまっているのだ。

 ゆえに、三宮氏の二刀流読書はお手本にしたい。精読も乱読も使いこなし、本の大海原を深く広く軽やかに泳いでいく姿は羨望すら覚える。シーンレスゆえに苦労したことは数しれないだろうに、そうした鬱屈を感じさせず、むしろ読書に心からの歓びと安らぎを見出している三宮氏の姿が、あまりにも眩しいのだ。

●新しい「政治の季節」への予感(寺島実郎)

 戦後、政治の時代から経済の時代を生きた著者による80年の歴史の概観は迫力があり、いかに日本の民主主義が未成熟かが伝わってくる。

 ただ一点疑問なのは、「政治でメシを食べる人の極小化」のためになぜ「議員定数の削減」が必要なのだろうか。議員定数を削減しても、結局のところ票集めのポピュリズムが幅を利かせるだけであり、「現場」に立った議員が増えるわけではないと思うのだが果たして。