新潮2024.1【読書感想文】

新潮2024.1

息吹/ 平野啓一郎

ひぇっと肝が冷えるラスト。

メタな考え方だが、小説という作品であるために息吹(登場人物)の考え方が妄想でなく事実なんだろうなとは感じていた。それにしたって突き放すような終わり方は心がキュッと縮こまる思いになる。

特に、物語が突き放している対象に息吹(登場人物)の妻や息子のみならず、読者も含まれていることが面白い。死を経験したことのない人間にもわかるように、丁寧に丁寧に、突然自身の存在が永遠に消えてしまうこととはどのように恐ろしいかを描いていて、ひょっとすると読者である「私」すら息吹(登場人物)のような知覚の範囲外に存在する何者かの意識が映した影にすぎないのではないかと思わされてしまう。

因みに、「息吹」という言葉には以下のような意味がある。

息吹(いぶき)とは、生命活動象徴とされる言葉である。生物呼吸を行う様子を指す一方で比喩的には、活力生命力新たな動きを示す表現として用いられる

weblio辞書

つまり息吹(ポリープを早期切除した方)は、息吹(末期癌で死亡した本体)の息吹(生命の活動の象徴)だったということだろうか。(うまいこと言いたいだけ)

—以下、確証バイアスを念頭に入れて読むべし—

すごく面白くて、いろいろ調べてみたところ、どうやらオーディオブック用に書き下ろされた作品らしい。確かにそう聞くと、エンタメ小説のエッセンスが凝縮されたような作品にも思えてくる。

物語の終え方は、音声で聞けばすぐにページを戻すことができず、よりあっけなさを感じられるだろうし、登場するオブジェクトの対比構造が読んでいてわかりやすい。素人の私が先でうまいこと言えたのが最たるもので、じっくりと文字を読み込まなくても(あるいは読み込めなくても)物語の構造を頭で把握できるようになっていると言える。

そう捉えると、新潮(雑誌)で読んだこの作品は「ノベライズ版」ともいえるかもしれない。オーディオ「ブック」と名がついているものの、作品にする上で留意するポイントが文字媒体の小説とは異なっているので、別ジャンルとしても良いのかもしれないと感じた。