モネ 連作の情景【芸術感想文】

ヴェトゥイユの春 公式サイトより

【感想文】

音声ガイドで登場した「研究」という言葉がモネにぴったりだと思う。

まず私の嗜好の話をする。

私は約5年前に鑑賞したムンクの太陽(The Sun)が忘れられない。

あれの何が私の心に響いたか、おそらく情熱、ないし強い感情だと思う。荒々しく塗りつけられた絵の具が隆起しているムンクの太陽は、カンバスの面から光が溢れんとしていて、生命の息吹が鑑賞する私の体にびしばしと打ち付けていた。

以来、私は絵画から漏れ出てくる様々な感情や熱意を感じ取ることが好きで、そういう作品を好む傾向にある。

一方で、今回鑑賞したモネの作品からは、そういった生きる情熱とった種類の感情はあまり伝わってこなかった。(勿論、そして今更な注釈だが私が美術素人だということは棚に上げている)

しかし情熱を感じられなかったからといってつまらなかったわけではない。むしろ逆で、非常に面白かった。

モネは絵画の研究者だと思う。

年を追うごとに習得した技術が増え、やがてはそれらを融合させ、足したり引いたりして芸術の姿を研究していたのだと思う。

特に私が印象に残ったのは3つ。1)鏡面2)境界3)空気の流れである。

1つ目の鏡面は、有名な蓮の連作にもみられるように、風景を反射する水面を代表に様々な作品に登場する。ただ、これは水面に限らず、[作品名]では大理石の反射を描いておりつるつるとした質感がしっかりと伝わってくる。

どこか病的なまでに鏡面を描き続けており、かつては風景を少し縦に伸ばしつつ正確に反転させて、その上から影を描いていくのみだったが、成熟していくに従い、鏡面の表現技法が増えている(とあくまで私は思う)。

2つ目の境界について。これは初期のころは割とはっきりと物体と背景それぞれの境界をはっきりと描いているように見受けられる。建物の輪郭や海と空を隔てる水平線などがそうである。

これが年を経ると曖昧になっていき、融け合うような表現も登場するようになる。

そして3つ目の空気の流れについて。境界に近いのだが、初期のころは空気の流れを線として、カンバスから浮き出る絵の具の盛り上がりとして、割とはっきりと描いていたように思える。したがって、空気の流れる速さや温度感などがくっきりと伝わってくる。これが、後期の作品になると、はっきりと描かれず、しかし暖かみのある表現が登場する。

そしてここまであげた3つの要素の初期から後期への変化が、変化では終わっていないのである。表現手法の引き出しとして備えており、初期と後期が全くの別物ではなく、それまで積み重ねてきた経験の蓄積を感じられる作品になっている。

例えば○○ではいかにも後期らしいが、そのあとに描かれた○○では初期の雰囲気もある。このようにそれまでの自身の経験を総動員できるところに、私がモネを研究者だと言った理由がある。

自身の培ってきたものを、足したり引いたり、とにかく試行錯誤を重ね、芸術の在り方を模索し続けたからこそ、連作という後世まで伝わる名作群を生み出せたのだと思う。

始めに書いたように、私の好みである絵画から生への切実さが溢れるような作品はあまりなかった。しかし、世界的に有名なモネの作品「のみ」を一身に感じられる空間は非常に贅沢で、とても良い時間を過ごせました。