感想
将棋を題材にした作品の頂点に君臨する存在を、否応なく感じさせられた。その名は「3月のライオン/羽海野チカ(白泉社)」。全17巻(今月新刊が出る!やったー!)にも渡る将棋の物語には、命を削るヒリつきも、棋譜を介した言葉なき会話も、将棋に係るほとんどすべてが描かれてしまっている。ゆえに、どうしても比較してしまい、結果として3月のライオンのほうが面白いか、同じくらいの面白さにしか感じられなかった。
もちろん、芦沢央氏の筆力は折り紙つきである。さっぱり端正とした文章でわかりやすくありつつも、各登場人物の感情が押し寄せるように伝わってくる。印象に残っているのは「恩返し」で、視点人物は主人公兼春のみなのだけれども、国芳棋将の将棋への熱意や愛、無邪気さや負けず嫌いがひしひしと伝わってきて、短編らしからぬ満足度に感じられる。
ただ、それはあくまで、3月のライオンでまだ題材になっていないからとも思えてしまう。「想い」「熱意」「執念」「職人」といったテーマはほとんどの話で中心を占めており、面白くはあるのだけれども、目新しさは感じられない。今作にせよ以前読んだ「火のないところに煙は」にせよ、文章の上手さや幅の広さを感じる一方で、「どこかで見たことある感」が中々拭えないのだ。
しかし、何回でも書くが、芦沢央氏の作品がつまらないわけではない。確固たる筆力があるからこそ過剰に期待してしまうところがあり、失望はまだまだ遠い(あるいは来ないかもしれない)ことも相まって、まだまだこれからも彼女の作品を漁るのだろう。私の知らない世界を見せてくれる芦沢央氏の作品、どこだ〜〜〜〜!!!
