感想
「でもね、あなたに会えて本当によかった。全部、理解してくれなくてもいい。こうしてしゃべっている言葉が全く無意味な音の連鎖ではなくて、ちゃんとした言語だっていう実感が湧いてきた。それもあなたのおかげ。ナヌーク、あなたのこと、ノラに話してもいい?」
p.193
かなり、面白い。久々に、全く新鮮な、今まで読んだことのないジャンルに出会った気がする。デンマーク、ノルウェー、日本、ドイツ、フランス、イタリアと、多数の国が地球上でサラダボウルのようにごちゃ混ぜになる。国や人を隔てていたはずの境界線はいつの間にか混じり合い、帰属意識の行先が不明になって、知らない感情や発見が立ち現れてくる。ジェットコースターのような興奮はないものの、胸の奥がどくどく煮えたぎるような熱さを感じられて、どっぷりと物語にのめり込めるのだ。
特に、HirukoとSusanooの邂逅のシーンが、カタルシスの洪水で心地よい。同郷のはずなのに、言葉が通じない。しかし、喋り続けることによって、言葉の意味という檻が少しずつ壊されて、やがて意味を為さないやり取りの中に新たな意味を発見する。HirukoはSusanooに喋り続けることで「全部、理解してくれなくても」「しゃべっている言葉が全く無意味な音の連鎖ではなくて、ちゃんとした言語だっていう実感が湧いて」くるのである。
ここで、私は自分の幸運を実感する。というのも、こう思えたのはひとえに「ありす、宇宙までも」という、年末年始で一気読みした漫画のおかげである。当漫画では、宇宙飛行士を目指す中学生の主人公アリスが、アメリカの研修プログラムに参加する話が登場する。ここで、世界各国から参加する学生たちは「英語禁止、母語だけ」という縛りの中でコミュニケーションを取るよう指示される。
始めは当然、互いの母語を一方的に話すだけで意思疎通は見られなかったが、様々なプログラムを経てミッションをこなしていくうちに、なんとなく気持ちが通じていくようになる。もちろん一週間の短期間で互いの母語を学ぶことはできないけれども、ルーツを胸にまっすぐとコミュニケーションを取ることで、互いの背景が浮かび上がり、親交を深められるようになるのだ。
ここに「地球にちりばめられて」との類似点、あるいは補助線のようなポイントを見出すことができる。いわんやHirukoやクヌートら登場人物はそれぞれ全く異なったルーツを持ち、止揚する言語も異なる。それどころかHirukoにいたっては独自言語「パンスカ」を用いて、スカンジナビアの誰からも理解されるけど、誰にも話すことのできない言葉を話す。
このようにnationという単位で見ると数多の境界線があるにもかかわらず、彼女たちはお喋りと旅路によってその垣根を簡単に破壊し、新たなる目的地を見出す。始めこそ日本が沈没するという不穏な立ち上がりだったものの、仲間を見つけ、旅がずんずん進んでいく様子は爽快で、思いのほか気持ちの良い読後感に驚かされるのだ。加えて著者がちょけているところも案外多く、ふふっと微笑ましく読むこともできてより楽しい。
あえて例えるなら、味の濃いスルメかもしれない。読み返せば読み返すほど面白くなる物語でありながら、初読みの満足度も高い。これがあと2冊も続くなんて、幸せもんだよわたしゃ。
ナヌークの顔にうっすらと明るさが戻ってきた。個々の文章の意味は不明でも、わたしが言葉にのせて自分の気持ちを流し出したので、その中から汲み取れるものがたくさんあったようだった。英語を使わなかったことがよかった。
p.194
