感想
●珠洲の夜の夢
好き。牧歌的な雰囲気に、妖が入り混じり、夢と現実が混じり合う。物語としての情景も、戯曲としての舞台上での動きも見えてきて、ほぼト書きながらも、いやむしろト書きだからこそ頭の中で自由に情景を映すことができ、充実した読後感を味わえるのだと思う。
車や携帯といった現代のツール、あるいはコロナのパンデミックが登場するから、お話の時代は確実に令和5年前後なのだろうけれども、寓話のような味わいもある。元ネタや背景を知っていればもっと面白いのだろうなと少し悔しいが、とはいえすごく面白かった。
こういう、豊穣な感情をうまく表現できないから、近い作品を挙げておく。
- エレファンツブレス綺譚 / 吉田篤宏
- 聖なる怠け者の冒険 / 森見登美彦
- にほんむかしばなし(テレビ)
●まえがきのまえに
言語化が完璧じゃない!?
私が短歌に求めるのも、「造語を究めない」ことかも
というか全文良すぎる。丸々引用したい。
良すぎるからこそ、「珠洲の夜の夢」のあとに読めて良かった。先入観なく物語を楽しめた。もちろん、「まえがきのまえ」は作品を過不足なく説明しているから、ハードルを上げたり下げたりしてるわけではないけれども。
●まえがき
こんな同日にストリンドベリの話2つも出てくる!?(もうかたっぽは「星に仄めかされて」)
●うつつ・ふる・すず
詩は現代詩人たちだけのものではない。私たちの日々の中で、詩はひそやかに息をしている。[略]
p.129 あとがき
珠洲は、そんな出会いを驚くほどたくさん授けてくれた。まず、海が、土地が、家々が、展示された民具が、暗がりにひそむ野生動物たちが、私に向かっていっせいに語りだした。
このあとがきで、作品の輪郭がくっきりと現れた。「珠洲の夜の夢」ほど大きな物語でなく、小さな息遣いを集めたようなお話である本章は、ややともするとす~っと流れるように読めてしまう。実際、あとがきがなければ私は危うく何も感じないまま読了していたと思う。
この「うつつ・ふる・すず」は、「ひそやかに息をしている」詩を散りばめた作品なのだろう。年代、性別、果ては種族までバラバラだけれども、確固とした息遣いが感じられ、そうした温かさの集合が、過去から未来へと貫かれた一本の「珠洲」となって、作品として立ち現れる。
語り部のかけがえのない言葉を、著者の大崎氏が丁寧に拾い上げるからこそ生まれる作品であり、ここまで考えて私はようやっと、本作の遠大さと尊さに心を揺さぶられるのである。
「珠洲の夜の夢」しかり、「うつつ・ふる・すず」しかり、すごく、大きい。伝統を大事にし、未来へ繋げようとする志向は、エンパワメントである。真っすぐで、愛おしくなるようなお話が、自然と動物と人間に温かく包まれて私の手元に本になって届く。これほど有難いことが他にあるだろうか。そう思えるほどに、本作は私の心を涵養してくれるように沁みていった。
