星に仄めかされて

星に仄めかされて

多和田葉子

講談社文庫

感想

 これは、ゆる言語学ラジオだ。

 本作の面白さ。劇的な展開はないのに、なぜかずーっと面白い。大きな感情の波はないのに、なぜか没入してしまう。次へ次へとページをめくる手が止まらない割には、見どころや魅力を知らない人に説明するのが難しい。

 こういうどこか奇妙な面白さを言語化できずにムズムズしていたのだが、ゆる言語学ラジオが割と近いところにいる気がする。ゆるく楽しく言語や衒学的な話を、しょっちゅう脱線しながらもそれすら心地よいドライブとして一緒に旅をしてくれる。まさに、Hirukoやクヌート、アカッシュやノラが道中で雑談するようなものなのだ。

 だから、終盤がやや頓珍漢な展開でも、不満を持つことはない。むしろ楽しい。人種や性別、国籍などの垣根を越えた人々が手を取りロンドを踊る。彼らが集った脈絡は要約できない紆余曲折を辿っているけれど、不思議と納得感しかない。偶然とも思えるし必然とも思えるような不思議な縁を通じて知り合った人々と旅をし、次巻ではHirukoの故郷のあったポリネシア目指して東へ船旅をする。なんて気持ちの良い冒険譚なんだろう。

 本作にはメインディッシュがない。しかしそれはつまらなさを意味しない。頭からお尻までずーっと味のするスルメをかんでいるような、何回でも食べたくなるような、そんな作品なのである。いや~美味しい美味しい。うまうま。