small tune,little view

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薄暑なつ

葉々社

感想

 さくさくふわふわメロンパンのような、微笑まずにはいられない幸福が、丁度良い塩梅でふくらんでいる。季節で言えば光がいっぱいの春や夏。もちろん影もあるけれど、あったかい心で背中を押すポジティブさが終始感じられた。

 一方で、上記の印象とは別に、私の好みとしては、幸福と背中合わせになった真っ白な死を見つめる歌が好き。それは共有不可能な孤独であり、そうしたものが存在すると書いてくれる歌が、どこまでいっても孤独を拭えない私の心に共鳴するから。

 特に「恐竜(p.86)」と「霊園(p.63)」は、光が死を照らし、短歌の中の主体(=生者)がその様子を観測し、触れているのが良い。幽明の境のゆらぎに浸っている様子が、途方もない奥行きをもたらし、水平線をぼーっと眺めるような癒しになるのだ。

 それはそれとして「珈琲(p.6)」はただただ好き。珈琲をおとすみたいに話したいし、珈琲をおとすみたいに話す人を、カップが満ちるまでちゃんと待てる人間でありたい。短歌自体がそうであるように、性急さから離れたところにある余白は、自分が思う以上に大事なはずなので。

 あと「映画(p.40)」もかなり良い。歌人であるからして当然かもしれないが、気にもとめない日常の些細なものを、星や花や涙など叙情的なものに例えて再発見するのが巧みで唸らされる。この歌に特筆して言えば、映画を観て流した実際の涙と、字幕のメタファーとして流れる涙がぴったり重なり、暗くなった画面に厚みをもたせている点で、完成されていると思う。

 このように、全体の印象はふんわりと明るい。しかし、よくよく慎重に読んでみると、歌ごとにぴったりなメタファーを用意しており、技巧に富んでいる作品であるとわかる。そういう点で、ぱっと見の印象以上に読み甲斐のある短歌集だと感じた次第である。

余談1

この人横顔フェチか?

余談2

ラストイヤー」のが好きなのに、付箋の数は本作のほうが多い。本作はうまいなあって思うのが多かったからかも。